■ USAレポート

第4回:キャリア・アンカー理論のはじまり

(1)キャリア・アンカー*1理論のはじまり

キャリア・アンカー理論のはじまりは、第二次世界大戦にまで遡ります。その時期、シャイン先生は、陸軍の情報大尉として、捕虜尋問の任務についていました。捕虜尋問というのは、アメリカ軍に協力するよう洗脳することを指し、強制的説得(Coercive Persuasion)*2とも呼ばれます。この任務の中で発見されたことが、キャリア・アンカー理論の形成の出発点になります。洗脳に対して、順向反応(アメリカ軍に協力を示すようになった)を示した捕虜と逆向反応(協力を拒否し続けた)を示した捕虜とで、ストレスを調べてみると、どちらとも等しくストレスを感じていると分かりました。戦中においては、戦局が流動的に変化します。その場はアメリカ軍への協力を示したとしても、戦局が逆転すると、裏切り者になる。協力を拒否し続けても自軍が逆転するとは限らない。このような葛藤の中で意思決定をすることは、多分にストレスを生じさせていると考えられます。

この出来事からわかったことは、同じ場を共有する人々は、どのような関係にあっても、互いに影響し合っている、ということです。たとえ、絶対的な権力関係にあっても、です。それまでの産業心理学では、個人は、環境から一方的に刺激を受けて反応する存在とされていました。個人は環境の従属物であり、環境が変わると絶滅してしまう。仕事で言うと、個人は会社の奴隷として意志なく働き、倒産すると路頭に迷ってしまう、ということです。しかしながら、環境の中に人間関係があり、その中で相互作用している、という仮説が発見され、シャイン先生によって組織心理学へ発展することになりました。集団精神療法家である、イボンヌ・アガザリアンが開発した『システム・センタード・アプローチ』*3のフレームを使って説明しますと、環境と個人の間に、複数のサブグループが存在します。サブグループとは、選択肢であり、複数あるということは多様であることを意味します。複数のサブグループが交わり、状況に合ったものが選択されるということは、個人に対しては役割や責任、尊厳をもたらしますし、全体としての環境に対しては複雑さをもたらします。生き残れる、ということです。シャイン先生も、アガザリアンも、社会心理学を建てたクルト・レヴィンの影響を受けており、「場の理論」*4の流れを汲む考え方と言えるでしょう。

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図1 産業心理学と組織心理学の構造

シャイン先生は、その後、企業組織の場で、企業と個人との相互作用について調査をしています。MITのMBAプログラムの受講生に対して、卒業後とそれから10年後に、インタビュー形式で追跡調査をしたところ、上記の仮説とは、まったく違うデータが得られてしまいました。つまり、個人は、企業から影響を受けていないし、またその逆、個人が企業に影響を与えたとも感じていない、というものです。

この調査で得られたデータから、個人は、ビジネスの現場に入ってから、10年ほど経験していく中で、自らに合っている働き方を見出し、またそれは、企業の基本的想定*5とは独立したものである、ということを導き出しました。このように、当初の動機から離れて、キャリア・アンカー理論が形成されていきます。

*1『キャリア・アンカー』(エドガー・H・シャイン(著), 金井 寿宏 (訳),白桃書房,2003)
*2『Coercive Persuasion』(by Edgar H. Schein, the Norton Library,1971)
*3『システム・センタード・アプローチ』(イヴォンヌ・M・アガザリアン(著),鴨澤 あかね(訳),創元社,2015)
*4『社会科学における場の理論』(クルト・レヴィン(著),猪股 佐登留 (訳),誠信書房,1956)
*5『企業文化―生き残りの指針』(エドガー・H・シャイン (著),金井壽宏/尾川丈一(訳),白桃書房,2004)
 『企業文化 改訂版: ダイバーシティと文化の仕組み』(エドガー・H・シャイン (著),尾川丈一(訳),白桃書房,2016)

(2)西洋と東洋における、キャリア・アンカーの捉えられ方の違い

続いて、キャリア・アンカーは、日本人には馴染まなかったり、誤解されてしまったりしているのではないか、という点についてです。この仮説は、西洋と東洋における自己形成プロセスの違いから導かれます。

まず、西洋の自己形成プロセスですが、個人主義的な文化、つまり異質的な社会の中で、異質なもの同士が相互作用することにより、G.H. ミード*6が言うところの、自我=”The I”*7に対して、客我=”The me”*7を形成していきます。他者と交差していくなかで、どのように自分を振る舞うのかを戦略的選択する、その選択肢を獲得していくということになります。新制度派経済学の観点から表現すると、市場取引における取引コストを下げるとも言えます。その後も、様々な性質を持った社会と相互作用していく中で、”The me”は変化していきます。”The me”は、その時々で社会的に担っている役割であり、言い換えるとキャリア・アンカーということになります。キャリア・アンカーは、異質的な社会だからこそ形成されうる、ということを意味しています。他者も含めた環境に同化してしまうのではなく、客我の形成=異化をして、他者との相互依存を築くことで、生き残りにつながる、ということでしょうか。

一方、東洋の自己形成プロセスは、組織主義的な文化、つまり同質的な社会の中で進みますが、このような環境下では、個人はただ染められるだけの存在になります。経験の中で変わっていくことがありません。成熟というのは、その環境の歴史や文化など、ユングの言う自我の奥底にある普遍的無意識*8に自分を同化させていくことを意味します。日本人としてどうである、同じ日本人の中でもより日本人らしく振舞う、ということが志向されます。そして、同質的な社会では、キャリア・アンカーは、「自分を映す鏡」として捉えられてしまいます。

西洋と東洋とで、キャリア・アンカーの捉えられ方は、雑に言えば、西洋では、社会的な役割であり、東洋では、自分そのもの、ということになります。このような理解の違いは、キャリア・アンカーの正しい活用を妨げ兼ねません。これを回避するために、日本でもベストセラーになっている、『7つの習慣』*9から視点をかりてみます。

『7つの習慣』によると、個人はまず基本的原則と契約をします。契約の対象は、国でも、お金でも、誠実さでも、何でもよいです。契約なく他者と関わってしまうと、反依存や共依存が起きてしまいます。基本的原則と契約をした個人同士が交わると、相互依存に達します。基本的原則と契約することで形成される自我を持ちながら、他者との相互依存の中で客我を形成する、という意味で、西洋と東洋の捉えかたをうまく統合してくれるのではないでしょうか。

他には、和辻哲郎が示唆した間人主義*10、オットー・ラスキーの社会構成主義的発達理論*11の視点も有用です。
前者では、人間は、間柄的存在であるとして、利己主義にも全体主義にも陥らず、個人を自覚した上で、他者との交わりの中で存在意義を見出すということが言われています。後者では、成人期における人の発達は、利己的な段階から、
いくつかの段階を経て、相互発達的な段階へ続いていくと言っています。

最後に、相互依存、相互発達の状況の中でも、解消されない対立や反依存が起こってしまうのも現実です。これに示唆を与えてくれるのが、西田幾多郎が唱えた絶対自己矛盾的自己同一*12というキーワードです。相反する二つの対立を解消しないまま、一つのものとして、それを契約するということです。これが、現実世界でキャリア・アンカーを活用する上で、もっとも大切な考え方ではないでしょうか。

*6『精神・自我・社会』((G.H. ミード(著),河村望 (訳),人間の科学社,1995))
*7『心理学 4—人格』(星野命/河合隼雄(編),有斐閣双書,1975)
*8『ユング心理学入門』(河合隼雄(著),培風館,1967)
*9『7つの習慣』(スティーブン・R. コヴィー(著),ジェームス・スキナー/川西茂 (訳),キングベアー出版,1996)
*10『間人主義の社会日本』(浜口 恵俊 (著),東洋経済新報社,1982)
*11『心の隠された領域の測定:成人以降の心の発達理論と測定方法』(オットー・ラスキー (著),加藤洋平(訳),2015)
*12『絶対矛盾的自己同一』(西田幾多郎(著))

第3回:ビーシャとの会話

アメリカからレポートが届きました。
小学5年生との会話ですが、この歳で自分の意見・考えをきちんと伝えられるとは…
自立の度合が日本と大きく異なるようです。
アメリカではキャリア・カウンセラーを含め、社会的にも自立を支援するような仕組みが整備されているためでしょう。
自立には、個人へのアプローチだけでなく、環境(生活空間)の整備を行うことが不可欠といえそうです。

先日、知人の娘さん(ビーシャさん:11歳)とキャリアについて会話しました。
内容は以下のようなものでした。(所々筆者の補足・解釈を入れております。)

(1)臨床心理士希望

彼女は、キャリア・カウンセラーに将来の希望を聞かれたため、心理臨床に従事したいとの返事をしたところ、PsyDに将来進学することを勧められたとのことでした。

(2)エドガー・シャイン

そこで、エドガー・シャインの「Helping」と「Pure Humble Inquiry」を読んでもらい、読後感想を求めました。
彼女曰く、何かに依存しているクライエント(性的嗜癖、アルコール依存症、薬物依存症、職場、家族、等)に「静謐な質問」を行い、側面的支援を行う(Enabling)ことは、クライエントをエンパワーメントし、クライエント自体のもつレデンプション(復元力)を引き出す。そのことによってクライエント自立し、それをキャナライゼイションすることで、クライエントの自己実現を支援することは、すばらしいことだとのことでした。

(3)依存から自立へ

さらに、彼女は、個人セラピーと並行して行う、集団精神療法や家族療法にも興味があるとのこと。友達のお姉さんやお兄さんで、折角セラピーをうけて、嗜癖から抜け出しても、昔の悪い友達が誘うので、舞い戻ってしまうケースや、家族の負のサイクル(ドメスティックな物語)に巻き込まれて、症状が再発するケースを痛感しているからのようです。
そういう場合、コンバインド・セラピー(コンテインメントの構築に繋がるような)を行って、グループや家族療法で、Secured Baseを再構築しないといけません。
こうしたSecured Baseは、また病院や学校から、アウト・リーチしていないと施設の持つ権力に巻き込まれて、ACT(Assertive Community Treatment)やコミュニティ心理学が実現できないこと。従って、向精神薬に頼る精神科医ではできないことがしたいので、心理に行きたいことも言及していました。

(4)依存から新たな依存へ。

キャリア・アンカー・テストは、
・この際今までの評価者の選び方が間違っていたのではないか(キャリア・サバイバル)
・もっと別の経路の評価者を選択すべきではないか
という、より社会性を増すための、組織社会化の変更の指標の方が、有用性を感じるとのことでした。キャリア・アンカーを、自己を映す鏡ととらえ、「自分に合った職業ではなかったから駄目だった。」「うまく順応できなかった。」「今度は自分にもっとあった職場を探してもらって、もっとうまく依存できるようにしよう。」また「そういう名目で、アウト・プレースメントしている日本のキャリア・アンカーやキャリア・デザインの仕方は、アメリカでのソーシャル・リプレースメントになっていない。」との感想でした。

(5)依存から自立へ、自立から相互依存へ

さらに、心理学は、ソーシャル・ワーカーと多職種協働(リレーショナル・コーディネーション)をして、自立したクライエントを、ウィン・ウィンな関係へ導くことが必要であり、そのためには、社会福祉施設で、技術の提供(遂行能力)だけではなく、デイケアやナイトケアを通じた協働能力の育成を、ソーシャル・ワーカーを通じて提供することが大事で、そうしたNPOは大事であり、復職支援センターだけでは、社会復帰は難しいとの感想でした。

(6)クライエントの承認

カール・ロジャースの大事な点は、クライエントが自分で選択すること。異質社会であり、契約社会のアメリカでは、契約の自由は、個人の所有権とならんでもっとも大事な考え方とのこと。日本の若い人に自殺が多いのは、そうしたクライエントのアドボカシーの適正手続きを踏んでいるのだろうか? 同質的社会で、支援を行うと本人がそれを拒否できず、Peer PressureやSelf-Regulationによって、陰性的な反依存を生まないかと心配していました。

(7)生活空間の再設計

復職後の、家族に代わる施設、家族に対する患者会での心理教育、同じ症状を持つクライエント同士のグループ活動において、個人療法家(精神分析)とは、別のパースペクティブを持つ民政委員と生活空間の再設計を行うことは、とても大事とのこと。生活構造への考慮なしのキャリア・デザインの再設計は、危険で、症状の慢性化や、従来の関係をさらに共依存化するだけではないかと、将来のコミュニティのあり方や、ばらまき福祉に対しても危惧を抱いているとのことでした。

(8)社会学

そのためには、心理学だけではなく、社会学や社会福祉も大事で、カウンセラーだけではなくPSW(社会保険福祉士)も取得しようかと考えているとのことでした。

第2回:イモベーションと企業文化

(1)企業文化

創業期のメンバーによるグループによって作られた、基本的想定をどの企業も持っている。何の分野で、何の製品で、どのような人事システムで、そのようにして市場参入し、シェアを押さえたか、その時の成功体験は、基本的想定として、企業の中心度を形成し、その後企業が成功し、多角化してもずっと強い影響を持ち続ける。
ホンダとトヨタが、同じカー・アセンブリー・メーカーでありながら、どこか製品の風味が異なるのは、この企業文化、即ち基本的想定によるものである。基本的想定は、企業のコーン・ピラミッドの中心度に影響し、基本的想定に教化された人間でなければ、中心度近くに入り込めない。優秀でも中心度から遠ければ、地位が高くても窓際である。地位が低くても中心度に近ければ大きな影響力を持てる。
基本的想定は、新入社員の教化に深くかかわるので、そのキャリア・アンカーの形成にも強い影響を与える。
また基本的な想定は、考え方だけではなく、企業に独自の社会的防衛機制を構築し、従業員の感情の持ち方にも影響を与える。
かくしてトヨタ・マン(企業人)が生まれてくるのである。

(2)合併

会計情報上、合併してメリットがあるように思えても、その後人事的な確執がおこり、多くの優秀な社員を流出することが度々ある。製品の製造や開発に長けている会社と、販売に長けている会社が合併すれば、一見相乗効果が見込まれるように思えるが。実際、上手く行くケースが少ないのは、双方の企業文化、即ち基本的想定が異なるからである。
合併に際しては、会計情報だけではなく、HR情報(即ち企業文化の相性)を考えることが極めて大事である。

(3)イモベーション

真にイノベーションを達成した企業は。3.3%しか生き残れない。実際は、イノベーションを起こした企業をイミテーションした企業が、たいてい成功しているのが現状である。但し、最初にイノベーションをおこした企業は、知名度がないので、一般の消費者は、二番手がイノベーションをおこしたと錯覚していることが多い。
マクドナルドは、ホワイト・キャッスル・バーガーのイミテーションである。

(4)イモベーション

但し、ただイミテーションをすればよいというものではない。イノベーションを起こした企業のもつ企業文化と近似した企業が、イミテーションを行わないと失敗すると言われる。
サウスウエスト航空を、デルタ航空がイミテーションした(いわゆるSong)が、大失敗したのはサウスウエスト航空(ベンチャー・カンパニー)のもつ基本的想定が、デルタ航空(メジャー企業)のもつそれとあまりにも違ったためである。
ここでも合併と同様に、企業文化の相性の判定が極めて重要になってくる。上手にイミテーションをマーケティングで行い、さらに自分の企業とイノベーションを起こした企業の企業文化が相似しているかのHR上の判断も重要である。
こうしたマーケティングとHRの双方の条件を満たした、成功裡のイミテーションをイモベーションという。

(5)企業の加齢

さらに合併やイモベーションには、双方の企業の会計・マーケティング上の相乗効果、企業文化の相性に加えて、企業の成熟度も問題となる。
企業は、最初の10-20年は、量的な拡大を遂げる。この際、企業の小集団は、創業期に近似した同質的集団である。ところが20-30年くらいたつと陳腐化してくる。この際、どうしても多角化を行う必要があり、外部の血を入れる必要がでてくる(同質的集団を異質的な集団に位相変容させる必要が出てくる)。
多角化するさいにも、似たような企業文化をもつジャンルにいかないと失敗すると言われる。津村順天堂が、多角化に成功したのは、漢方薬事業部に加えて、化学品事業部を創出する際に、バスクリンという「漢方薬を科学した」製品であったから、上手く行き上場も果たしたのである。
A社がまだ若く、伸び盛りで、同質的集団であり、B社が成熟していて、異質的集団であると、その双方の基本的想定によるサブ・グループの振動がことなるので、このケースもサブ・グループの間にコンフリクトが起こってしまう。
こうしたコンフリクトは、企業のもつ社会的防衛機制に影響を与え、多くの従業員を不安にさせる。

(6)日本

日本は、量的拡大を行うに当たり、西欧に使節団を派遣して、企業文化が近似しているドイツやフランスの制度(大陸法)を取り入れた。その後、第二次世界大戦のあと、アメリカ・イギリスの文化。諸制度も加味して、「Japan as #1」というエポック・メイキングを達成したが、その後、量から質への転換を迫られているものの、イギリスのように上手く転換を行えずにあおり、このままでは、成功体験を引きずるのみで、世界最優秀の下請け工場に成り下がる崖っぷちに、いると思われる。
今後、質的な転換に当たり、どういうイモベーションを行うかが重要と思われるが、その際には、日本の企業文化の独自性を良く理解していくことが肝要である。

<2013年6月10日、パロアルトにて、シャイン博士と対談>
Process Consultation Inc. CEO Joichi Ogawa

これからの組織開発を考える

第1回:Xチームとプロセス・コンサルテーション

個人と組織の関係性の変化、組織力やチーム力の開発が叫ばれる中、これからの時代の組織開発はどうあるべきなのでしょうか?その問いに答えるために、先日、組織と個人・個人間の関係性開発を探求しておられるRCRC(Relational Coordination Research Collaborate)のJody Hoffer Gittell教授と、Deborah Ancona教授(MIT)の著書である『X-teams』を題材にグループ研究に関してディスカッションしましたので、その内容について報告します。ちなみにJodyさんとAnconaさんは、MITの同窓生であり、ディスカッションは大変和やかな中スタートいたしました。

ディスカッションはまず、初期の組織開発(OD)に関する議論となりました。

(1)初期の組織開発(OD)について

ホーソン実験や社会技術学派の影響と、産業民主化の動きの中で、R・ベックハード(MIT)、ウォーレン・ベニス(USC)、エド・シャイン(MIT)、ローレンス&ローシュ(ハーバード)らによって、Addison-Wesley社からODシリーズの第1弾が刊行されました。ODは人間発達や気づき、自己実現をグループ活動(※)で行うことは、ODによって、従業員のコミットメントを高めることになり、現代流にいえばエンパワーメントを惹起させることで、生産性の向上にも寄与すると目されました。ところが、自動車メーカーのボルボに代表されるように、商品の安全性や耐久性は高まったものの、マテハン(マテリアルハンドリング material handling)等、中間在庫の増大や職人気質(かたぎ)のこだわり(この方式は、セル生産方式に一部生かされていますが)等から、かえって直接費のコスト増をみるに至り、OD運動は中座したと考えられます。

※グループ活動

グループ活動については、QCサークル活動の1つの源泉もここから派生しており、基本理念として次の3つを掲げている。

  • ①企業の体質改善・発展に寄与すること
  • ②人間性を尊重し、生きがいのある明るい職場を作ること
  • ③人間の能力を発揮し、無限の能力を引き出すこと

役割と特徴として、人間尊重の精神に支えられた、グループ活動指向の、自主的な小集団活動で、問題解決の方法としてQC七つ道具を駆使する「QCストーリー」を武器とする。

(2)リ・エンジニアリングについて

(1)の反省として、トヨタ生産方式(トヨタほどQCに力を入れている生産システムはないわけで、リーン生産システムと捉えることには若干の疑問がある)にみられるような、リードタイムの短縮・中間在庫の削減・JIT(Just in Time)といったリーン生産システムの普及(これに伴って、QCサークル活動も道具主義的に変質していく)と、ブルーカラーへのマニュアル化が始まりました。結果、大幅な直接費の逓減を実現したものの、部門間のRelational Coordination(RC:多職種協働)が進まないものとなってしまい、結果としてゴール・イメージが共有化されないことによる齟齬を解消するためのプロセスが必要となり、却って間接費の増大を見るに至っています。 加えて、上記のような「変質」により管理職を育む組織風土が喪われてしまったために、間接部門の管理職育成などにも大きな問題を抱え、一度リ・エンジニアリングの想定外の事故が起こると、収拾のしようがない状況になってしまったと言えます。 つまり経済的占有を試みるあまり、従業員の社会的成長の場としての企業の価値や、解決できない問題を市場外に置くことのリスクによる安全性の喪失が起こりつつあるといえるでしょう。これらに対して、近年、ワールド・カフェ、オープン・システム・テクノロジー、AI(Appropriate Inquiry)、フューチャー・サーチ、RC等が試みられつつあり、一種の「ODの復活」と叫ばれています。

(3)イノベーションとは何か

そもそもODの導入当初は、企業の持つ企業文化がそれ故に市場での存在価値を保持し、イノベーションを生み出し利潤の創出につながります。しかし、しばらくたつと陳腐化し、当該企業を企業足らしめていた組織文化の故に、その企業のイノベーションが止まっていくということが起こります。
この桎梏(しっこく)を打破するために、ODが行われたともいえるが、これがリ・エンジニアリングやチェンジ・エージェントにとってかわり、それが機能しなくなったのは(2)で述べた通りです。こうした変革に向けての活動について、従来のODは却って組織文化の固定化を生み出すので、企業内を固めることは弊害である考えて良いでしょう。むしろ組織文化からはみ出た「ゲートキーパー」が企業外と結びつくことで、技術的アーキテクチャー(Technological Architecture)を革新していく方法の方がよいのではないかという文脈が生まれ、その一つとして「Xチーム」に注目が集まっていると言えるでしょう。Xチームに関しては、以下のことが述べられている。

① Xチームの特徴

外交活動とは…チーム外の活動にかなりの精力を注がなければならない

  • ・偵察:調査活動(スカウト活動) チームに期待されていることや情報の入手先、市場の動向などを把握するために、会社内外の状況を調査する。
  • ・外交:好親善活動(大使活動) 組織の上層部に働きかけてトップマネジメントから信用と支援を勝ち取るとともに、味方と敵を常に把握しておく。
  • ・タスク調整:調整活動 組織内の他のグループと交渉して、彼らの協力と期限遵守の約束を取り付け、必要な場合は仕事の遂行を手助けしてもらう

② Xチームの適用事例

これら3種類の活動がチームの任務達成にどのように寄与するか以下の観点で見て行きましょう。

  • ・超効率的執行:チーム内で高度に効率化した超効率的執行体制で一体化する
  • ・柔軟なフェーズ転換:さまざまな局面を柔軟に取り込みながら、時間の経過とともにチーム活動を転換していく
  • ・探索:周囲の世界を調べて、多数の選択可能性を吟味する
  • ・開拓:1つの方向を決め、効率的な活動と実践に向け組織的に活動する
  • ・搬出:自分たちの業務が大きな組織の中で牽引力となるための努力に集中する

さらに、旧来の組織開発(OD)のような内部組織にむけたグループ活動を通じて組織文化の規定となる基本的想定を強固にするだけでは、組織文化を動かすもう一つの柱、すなわち技術的なイノベーションを励行できないと結論づけられている。

(4)Xチームとプロセス・コンサルテーション

それでは、XチームとMITでの彼女の元上司であったエド・シャインの「プロセス・コンサルテーション」とは、何の社会的相当因果関係を持たないのであろうか?
ジョディ先生によれば、「偵察・外交」といった外部活動とは、技術情報のみならず、競争相手の株主・法規制・顧客・内部統制情報を知るということで、単に組織外の状況に対して別のリレーショナル・コーディネーションを行うことではないということだった。つまり換言すれば、競争相手の「プロセス・コンサルタント」になったつもりで、競争相手のODをできるくらいに、マーケットの中の競争相手の内部組織情報や競争相手の顧客情報まで精通しなければならないとの意味があるとのことであった。
そういった競争相手の込み入った内部組織情報を、自分の会社の内部で理解するためには、従来よりもさらに強固なODが必要であり、もっと徹底したプロセス・コンサルテーションが必要であるとのことだそうだ。
加えて、アンコナ先生は「分散型リーダーシップ実践において重要な4つの能力」を定義した。その内容は以下の通りである。

  • ・状況認識:チームやそのメンバーを取り巻く世界を理解することである
  • ・関係構築:組織内外の人々との間にしっかりした人間関係を築くこと
  • ・ビジョン策定:魅力的な将来イメージを想像する
  • ・創意工夫:ビジョンを実現するための新たな協力方法を生み出す作業

状況認識とは、競争相手の外部組織情報だけではなく、競争相手の内部組織情報まで含まれている。関係構築とは、自社の内部情報をイントラ・RCRCするだけではなく、競争相手の内部情報まで咀嚼出来るような強固な人間関係を意味している。これをアンコナは、自省的姿勢を維持するためのチーム・ミーティングの「チェックイン」と「チェックアウト」と言っている。参加者一人ひとりが何を思っているのかを確かめ、チームの全員が(外部状況までを)話すことをプロセス化することをもって、エドのPCの再定義としている。(『Xチーム』:111ページの原注11、訳注1を参照されたい。)
チェンジ・エージェントやXチーム等を持って、「ODは終わった」という論争もあり、リ・エンジニアリングの過剰がRCRCをなくし、間接費の膨大なコストを生んでいるとの指摘(フューチャーサーチ)もあるが、株主が発言を増している今日、従業員は自社の外部組織情報も咀嚼しなければならないと言えるでしょう。したがって、競争相手の外部組織情報、強いては競争相手の内部組織情報を加味した偵察・外交が必要であることは言うまでもなく、そのためには徹底したOD(PC)がさらに必要(偵察・外交に時間を取られるため、短期間でTQMやワールド・カフェを行わなければならない)であり、イノベーションの革新(技術的アーキテクチャーの革新)に留まらず、外部情報も含めたPCがないと、組織が崩壊することも厳に戒めなければならないと言えるでしょう。

初期のOD(組織開発)から今日的に注目される概念に通底するプロセス・コンサルテーションの意義と展開を改めて確認できた、有意義なディスカッションとなりました。

Process Consultation Inc.(USA) CEO Joichi Ogawa(2013年4月20日)